ある男が1人の孤児を引き取った。
酔狂なコトにそいつはその孤児を自分の子のように育てた。
ギターを教えた。喧嘩を教えた。学校にも行かせた。
いつの間にかそいつが父さんになっていた。
そう、その孤児だったのがオレ── Berzes McCrain ──さ。
幸せってのは儚いものさ。オレが13の時、父さんは死んだ。その時は事故だと聞いた。葬式をしてもまだ信じられなかった。
父さんは、学校出るまで充分暮らせるだけの貯えを用意してくれていた。随分準備が良すぎると、子供ながらに思ったよ。
学校を出たオレは音楽で食って行くコトに決める。一番自信があったからな。
ケド、そんなヤツはごろごろいるのさ。知ってのとおり、ミュージシャンなんて沈んで行くヤツの方がずっと多い。オレも沈んで行くだけに見えた。アイツに遇うまでは、な。
「今日は一段とイイ男ね」
傍らのオレにリリィ──相棒にして恋人の Lily TransFlau ──が言った台詞だ。ま……後にして思えば忌々しい悲劇の序章ってヤツさ。
「ライブの後で血が滾ってっからさ」
リリィと組んで売れ出したおかげで、大きなライブハウスが使えた日だった。
「そりゃそーと……それじゃいつものオレが可哀想じゃないか?」
得意の軽口を叩いてベッドに押し倒す。
「ちょ……シャワーくらい浴び……」
半分諦め口調でリリィが言う。ぁん? もう半分だって? ……自分で考えな。
「ダメだ」
……。
部屋の中はただひたすら喘ぎ声が、嬌声が、絶叫が支配していた。
ふと……奇妙な音で我に返った。
ギシギシ……
ベッドが軋んでるワケじゃないらしい。
ギシギシ……
──耳の中に直接、骨がこすれあうような嫌な音が響いている。
うるせぇな、なんだってんだ!
──片手で顔を覆って頭を横に振る……ハズだった。顔を覆ったところで自分の動きが止まる。……顔の異変に気がついた。
恐る恐る手を見てみる。
笑った。
悪い夢だろう?
──何者かが吼える声が聴こえたような気がした。
夢なら早く覚め……
願いは最後まで言うコトも、いや、思うコトさえも許されぬまま凶暴な何かが呑み込んでしまった。
……死んだコトが信じられない人間が2人になった……。
その後、いろいろあってガルゥの話を聴いたりしたんだが……そんなの他のヤツもおんなじだろうからいいだろう。
人間としてやり残したコトがあった。
レクイエムを作った。リリィに捧げるために。
その「最後の」曲は……言わなくっても知ってるだろう? 全米No.1になったあの曲さ。「最後の」じゃなくなっちまったケドな。人間の都合、金の都合ってのは運命よりまだ惨酷だ……。
ま……オレがこんなトコにいるのはそういうワケさ。人間の理屈が信じられなくなった。今じゃ、ガルゥの理屈の方がまだマシだよ……!