White Left Foot's Session Report

ヒダリシロ、打ち明けて曰く

シャドウ・ロード族のフィロドクス、ヒダリシロが、『幽霊のごとく吠える』スコリオに、胸の内をうち明けて曰く――

わかっています、私の為すべきことは。『待つ者』のパックを離れ、彼らのパックに加わるべきなのです。でも、私は迷っています。何をするのが正しいことかはわかるのに、その正しいことをするのを迷ってしまうのです。何故迷ってしまうのかは……よくわかりません。最初は、彼らのことが信用できないからだと思いました。けれど、今は少し違うような気もしてきたのです。

……わかりました、『幽霊』よ、あなたの言うように、最初から、彼らに会った昨日からの出来事を振り返ってみましょう。そうして考えましょう。私のこの迷いが、どこから来るものなのか。

昨日、私は『待つ者』のパックに戻りました。私が何故パックを離れていたか、『幽霊』は勿論知っていますね、ええ、そう、私の子どもたちを育てるためでした。アイダンには、子どもを生んだことで、何故か「年寄り」などと言われてしまいましたが、まあ、それも今となっては懐かしくさえあります。

とにかく、私は『待つ者』のパック仲間とともに、狩りに出ました。そのとき、名乗りの遠吠えが聞こえてきたのです。『幽霊』は、アイダンとアンジャに村に戻るように言い、私に自分について客を迎えに行くよう言いました。私たちはそれに従い、そして私は彼らと出会ったのです。

彼らの第一印象ですか? ゲットの二人――アルン・フリードとギズルフは、注意を欠かせないなと思いましたね。アルン・フリードは客の身でこちらの言うことに逆らい、私にあまりに無意味な決闘を申し込んで来ましたし、ギズルフは私にひどい暴言を投げつけてくれましたから。暴言の内容ですか? 聞かない方がいいですよ。でも、同行のローマ人、ディニアケスは、私と一緒にアルン・フリードの暴走を食い止めてくれました。彼はローマ人ではありますが、あのゲットどもよりは数倍良識がありますね。まあ、ゲットの二人に良識がなかった理由は、あなたもご存じの通り、後から知れるわけですが……

さて、それから彼らの仲間だという者たちが、遅れて私たちのなわばりに入って来ました。ネフェルァリアというストライダーと、ケルニー・オハラというフィアナです。ネフェルァリアは、おかしな荷物を持っていましたね! 『幽霊』も見ましたか? あの大きな箱です! 棺というのですか? なんでも、あの中に入っていると、銀の武器で傷つけられた傷が、ぐんと早く治ってしまうのだとか。彼女には色々と驚かされました。ほら、彼女のあの肌、あの真っ白い肌。あれは忌むべき生まれの印のはずでしょう? なのに、彼女のあの強さ、あの素晴らしい名声! ……にしては、位階のずっと低いギズルフなんかに妙に下手に出ていて。不思議な人です。

色々ありましたが、結局彼らは、私たちの愛すべき『呪われた村』に宿りました。そしてその晩、つまり昨晩、チミナージとして、ケルニー・オハラが私たちに歌を捧げてくれたのです。彼らが、夢に導かれて、水から出てくる恐ろしい敵を倒すためにここに来たのだ、という歌です。ケルニーはシーアージだという話ですが、とてもとても。ガリアルドでなければ、あのように聞き手の心揺さぶる歌はうたえないでしょう。あの高く低く囁く声! けれど、ええ、私たちを説得するには至りませんでした。確かに、美しく不思議な歌でしたが、アイダン辺りも、なんとも腑に落ちないものを感じていたようですね。正直、私もです。ですから、ケルニー・オハラの歌に偽りがないか、神経をとがらせていました。偽りを歌った、というふうではありませんでした。でも、彼らは大事なことを隠していました。私たちが相変わらず彼らを信用していないと気づくと、彼らは、自分たちが隠していたことをアイダンと『幽霊』にうち明けました。つまり、彼らは〈ビジョンクエスト〉のために未来からやってきた、ということです。

私がそれを知らされるのは、もう少しあとのことです。そのころ私は、私なりに自分の運命と組み合っていましたから。私は歌を頭から信じ込むことはできませんでしたが、その歌と自分の運命とが重なることに気づいたのです。私は、ネフェルァリアに話しかけることにしました。彼女が彼らのアルファのようでしたし、物腰が柔らかく、話しかけやすかったので。

そのとき、私は彼女に私の見た夢を話してしまうことはできませんでした。あの、ドナウが溢れ、私たちの村が水に沈んでしまう夢のことです。あの夢は私の中であまりに生々しくて、あまり多くの人に話してしまっては、それが本当のことになってしまう気がしたのです。怖くて、私は話せませんでした。私の夢が、他人を不安にさせることにも気づいていました。アイダンにも注意されましたから。

私がその夢のことを話したのは、その翌日、つまり今日、アンジャと一緒になわばりの見回りに行ったときのことです。その見回りに、「周囲の地理を知るため」と言って、彼らもついてきました。……ああ、ここから先の話は、『幽霊』も知らないのでしたね。彼らがアンジャを怒らせた話も、まだ聞いてませんか? そうなのです、彼らはアンジャの逆鱗に触れてしまったのです。私も止めれば良かったのですが、あれよあれよという間に、アンジャは彼ら……特に彼女の出自についてねちっこく詮索してきたアルン・フリードに決闘を申し込みました。……え、そりゃ、牙の短剣は使わないよう頼みましたよ! 本当に相手を殺してしまいかねませんからね。勝敗ですか? 勿論、我らがアンジャが勝ちました! あっさり勝負はついてしまいました。アンジャはかすり傷一つなし。負けたアルン・フリードは、態度を翻して、アンジャに謝罪しました。誇りを傷つけて悪かったとね。ギズルフもです。まったく、あのゲットども、どうして決闘にまで至らないと相手の心を慮ろうとしないんでしょうね。

その決闘が終わって、アルン・フリードがネフェルァリアの棺に納まってから、です。私が彼らに私の夢をうち明け、彼らの『待つ者』のパックを離れ、彼らのパックに加わることを決意したのは。たぶん、アンジャとの決闘の一件で、彼らへのわだかまりがほぐれたからでしょうね。誰だって間違いを犯すわけで、彼らはその間違いが多少他のガルゥより多くて、過激だってだけです。過ちを認めて償おうって気持ちはある。それなら、まあ、ないよりはマシですから。それに、彼らに付き合った昨日と今日は、私にとっても随分面白いものでしたしね。ネフェルァリアはアスロなのにやたら謝るし(ゲットどもの分までね!)、ケルニーは飄々としてて捉えどころがないし(あんなガルゥは初めてです! そういえば、アイダンがケルニーを気に入ったんですって?)、ディニアケスは仲間がおかしくなったと真剣に悩んでるし(彼だけは未来から来たわけじゃないそうで……あのパックで、唯一私と同じ現代のガルゥのようですね。あの破天荒なパックの良心といったところでしょうか)。

ええ、そうなんです。私の彼らへの不信というものは、実はそう大きいものではないんです。今の私の迷いの理由とはなり得ない。……ああ、そうですね、私は彼らのパックに加わるのがいやなのではなく、『待つ者』のパックを離れるのが寂しくて、不安なのかもしれません。『待つ者』のパックの中で、私だけが夢を見ました。何故私だけが? 何故あなたや、アイダンではないのでしょう。私はアンジャのように強いわけでも、アイダンのように語れるわけでも、『幽霊』のように調和をもたらすことができるわけでもありません。……私は、彼らの中で何ができるのでしょう。

……話を聞いてくれてありがとう、『幽霊』。あまり悩んでばかりもいられません。迷うのはこれくらいにして、そろそろ彼らとともに、水浸しの王とやらと撃退する方法を考えなければなりません。過ぎた悩みは、ワームにつけ込まれます。……ええ、『幽霊』、あなたの言うとおりです。ガイアが、私に彼らとともにこの地を守れと言ったのでしょう。それならば、私はそれに従うまでです。私にもできることがある? そう言ってくれるのですか? ええ、そうなんです、彼らには調停者がいませんからね。争いごとは多そうなのに、まったく今までどうやってやってきたのか……

ああ、なんだか気持ちが晴れてきました。私は彼らの内にある争いを調停し、彼らを外の敵に集中できるように努めましょう。悩んだり迷ったりはもう充分です。私の半分は狼です、狼ならば、先を思い悩むようなことがあってはなりません。

おや、すっかり長く話してしまいました。付き合わせてすみません。

では、『幽霊』よ。しばしの別れを。私は彼らのパックに加わります。この地にもたらされる災いを食い止め、私たちのこの村の安全が守られた時、私はまたここに戻ってきます。そのときはどうか受け入れてくださいね。

でも、今は、少しだけ、『待つ者』を離れることをお許しください。